2023年9月
じつは、いつもの見慣れた風景の中にも、発想のタネはたくさん隠れています。それを見つけるには「視点」いわば「自分なりのルール」を持って、じっくりと観察することが大切。
がらまんデジタルクリエイティブミーティング「さがそう、発想のタネ」のワークショップでは、身の回りを観察して発想のタネをさがします。コップやスマートフォンといった身近なモノや見慣れた景色から、発想のタネを育ててみよう。さらにはプログラムによる映像の自動生成で、もりあがること間違いなし。もしかしたら、誰も見たことのない世界が見れるかも!?
アーティスト/デザイナー:近森基
ソフトウェアエンジニア:高鳥光
プログラムディレクター:タグチヒトシ
宜野座村文化のまちづくり事業実行委員会
アーティスト/デザイナー。テーマやモチーフに潜んでいる物語を掘り下げ、様々な道具や素材を使って、あたらしい発見や学び、ワクワクするような体験の創造に取り組む。Ars Electronica(オーストリア)、ポンピドゥー・センター(フランス)、文化庁メディア芸術祭(日本)など国内外にて数多くの作品を発表。NHK Eテレ「デザインあ」ほか映像制作も多い。
plaplax.com
昔から、影は実在することの証であった。けれども、影そのものはモニターに映し出されたイメージと同じように、実体がない。影はまた、影絵にみられるように、映像というものの原点でもある。《KAGE》ではそのことに着目し、円錐形のオブジェの影をコンピュータによって作り出した。オブジェに触れると、その影は、動き出したり、形を変えたり、ときにはカラフルに色づいたりする。 鑑賞者は、映像である偽物の影と自分自身の本物の影が同じ平面上に投影されたとき、自分の影と存在を再認識するのである。
12:00 「KAGE-table」体験展示
KAGE-tableについて
13:00 ワークショップ
「さがそう、発想のタネ」
15:00 トークショー
近森基さん(アーティスト/デザイナー)
文:熊山准
企画や開発といったお仕事に携わる方だけでなく、「今夜のメニューは何にする?」「明日のデートどうしよ?」「忘年会の出しものを考えてきて」といったお題はつね日ごろ発生するもの。手っ取り早いのは「パクる」ことかもしれませんが、あなたなりのオリジナリティを発揮したい時は、テクニカルにアイデアを出す方法を身につけておいて損はありません。無限に発想のタネを芽生えさせる方法があるとしたら、誰もが知りたいと願うことでしょう。
そのヒントの数々を教えてくださるのが、がらまんデジクリミ第3回のゲストクリエイターである近森基さん。NHK Eテレ『デザインあ』をはじめ、メディアアートの祭典「文化庁メディア芸術祭」や「Ars Electronica Festival(オーストリア)」での出展といった錚々たる経歴をもつトップランナーです。
今回は、近森さんのアイデアを具現化すべく、プログラマの高鳥光さんもジョイン。がらまんホールと宜野座中学校でのワークショップを中心に開催しました。
近森さんのアイデア発想法のひとつに、「集めて並べてみる」があると言います。
事前にワークショップの参加者に課せられたのは、「家にあるコップを持ってきてください」というお題。デジタルクリエイティブのイベントにコップ?と半信半疑で持ち寄られたそれらは、ひとつひとつカメラで撮影して、デジタルデータとしてコンピューターに取り込まれてゆきます。
まずは、集まった総勢30個以上のコップをテーブル上に並べ、「高さ順」「大きさ順」といったさまざまなルールで並び替えてみます。数が数ですし、すべて目測ゆえ「比べて並べる」、ただそれだけの作業でも悪戦苦闘する参加者たち。ここでも「モノ同士をどう比べるか」「効率よく並び替える方法は何か?」といった課題がくわわり、それらに対しての解決法があれこれと提示されます。
それがまさに発想のタネであり、アイデアの尻尾という近森さん。さらには大きさや高さで並び替えられたコップを眺めることで、見えてくる法則や疑問点もあるのだとか。そして、これもまた発想のタネだとも。
こうしたアナログの並び替え作業を、今度は高鳥さんが組んだプログラムに任せてみます。大勢で何分もかかった作業がわずか数秒で完了するではありませんか。そのスピードもさることながら、発想のためのツールとしてコンピューターを活用することで、思いつく限りの並び替えがトライすることができる。
その無数の作業の中から、新たな発想や面白さが浮かび上がってくる。これもまた、近森さん流のアイデア発想法のひとつです。
イベントでは、さらに参加者のスマホを使ってホール周辺にある「宜野座のまる」を撮影してもらいました。マンホールや道路標識といった数々のまる(=◯)は、またもやコンピューターに取り込まれ、「小さい◯から大きな◯へと拡大・縮小する動画」や「左から右へと移動する動画」が自動的に生成されます。コップ同様に素材をたくさん集め、ある一定のルールで編集すると見えてくるものがある。
ワークショップでは「宜野座のまる」に対して、あらかじめ用意してきた「東京のまる」でも動画を生成し、見比べます。同じお題やルールでも場所が変わることで、また、違った見え方がする。こうしてどんどんと自分の中で縦に横にと問いを広げてゆくのも、また近森流と言えるのかもしれません。
宜野座のまる(YouTube)
東京のまる(YouTube)
続く、第2部ではロボットアニメから始まったというクリエイター・近森さんの半生を振り返るキーノート。さらには近森さんのメディアアート作品《KAGE – table》体験コーナーも。まさに「見て、聞いて、触って、歩いて」と五感をフルに使った刺激的なひとときをみなさんと共有しました。その手応えは、閉会後も近森さんや高鳥さんらに駆け寄り、熱心に話を続ける参加者の姿が物語っていました。
また、本編とあわせて宜野座中学校の2年生を対象にワークショップを併催。
まずは全生徒が持っているiPadを使って、生徒それぞれの好きな色を表示してもらいます。表示する方法はなんでもOK。カメラで好きな色を撮ってもいいし、お絵描きツールで表示してもいい。中には「黒が好き」と電源オフで提出したキレ者も。そんなiPadをチームごと、明るさごとといった「視点」で並び替えることで、一定のアルゴリズムや面白みが生まれてきます。それを逃さずキャッチするのが近森さんの真骨頂。
また、本編同様に「宜野座のまる」ワークショップも披露。希望者には各人が作ってきた「宜野座のまる」を使った動画を、近森さんや高鳥さんらがレビューする、という特別補講もあり、と盛りだくさんな内容でした。
「転がる石に苔むさず」とは古くからのことわざですが、アイデアもまた、沈思黙考することなく、動き続けることで生まれる。そういえば、子どもの頃、自転車で走り続けてるときほど、どんどんアイデアが湧いてきたことを思い出したのでした。
これまで3回開催してきたがらまんデジクリミですが、受動的な公演・講演だけではなく地元沖縄の方や学生を巻き込んでのワークショップというスタイルをとったことで、よりいっそう参加者が能動的に何かを掴んで持ち帰ってくださっている。そんな実感を強く得られました。
コップの並び替えを、今度はコンピューターにやらせるとどう変わり、どれほどスピーディになるのか? その違いをプログラマの高鳥さんを交えて探ります
— がらまんデジタルクリエティブミーティング@沖縄宜野座がらまんホール (@garaman_dcm) September 23, 2023
とはいえ、中にはコンピューターでは、コップと判別できない場合もあったり、AI全盛の昨今ですが、まだまだ人力が必要な場面がありそうです pic.twitter.com/QbXiZDrM7X
#がらまんデジクリミ